ホルムズ海峡封鎖でナフサ不足の影響?TOTOユニットバス停止の真相
2026年4月13日、住宅設備大手のTOTOが突然、ユニットバスやシステムバスの新規受注を即日停止しました。
再開の見通しは「立っていない」とのこと。
原因は、中東の「ホルムズ海峡封鎖」による原料不足——つまり、遠い中東の出来事が、突然私たちの家の浴室に影響を及ぼしているという、にわかには信じがたい事態なのです。
「え、お風呂が作れないってどういうこと?」と思いますよね。
正直、私も最初にこのニュースを見たときは目を疑いました。
でもこれ、冗談でも誇張でもなく、現実に起きていることなんです。
昨日発注かけたTOTOキッチンとトイレ、間に合わなかったようです。キッチンとトイレも出荷停止…………
— asa@建築家と東京狭小3階建の家づくり (@piccadilly19) April 14, 2026
SNSでは「リフォーム業者から納期未定と言われた」「新築を計画中なのに風呂がつかない」といった声が広がっています。
この記事では、なぜ中東の海峡封鎖がお風呂に影響するのか、過去の類似事例と比較しながら、私たちが今やるべきことまで一気にまとめました。
ナフサ不足とユニットバスの関係とは?
ユニットバスと聞くと、陶器やタイルで作られているイメージを持つ方も多いかもしれません。
でも実は、現代のユニットバスって壁・床・天井・浴槽のほとんどがプラスチック(樹脂)でできているんです。
その樹脂の原料をたどっていくと、「ナフサ」という聞き慣れない物質にたどり着きます。
ここが今回の問題の核心部分なので、少し丁寧にお話しさせてください。
そもそもナフサって何?
ナフサとは、原油を精製する過程で取り出される軽い成分のことで、ざっくり言えば「粗製ガソリンのようなもの」と思ってもらえれば大丈夫です。
このナフサから「エチレン」や「プロピレン」という物質が作られ、さらにそこからプラスチックや有機溶剤(接着剤やコーティング剤の主成分)が生まれるという流れになっています。
石油化学の世界では「コメ」に例えられるほどの基礎原料。
これがなければ何も始まらないという、それくらい大事な存在なのです。
ナフサなどの石油関連品の画像 毎日新聞公式サイトよりユニットバスのどこにナフサが使われている?
では、ユニットバスのどこにナフサ由来の素材が使われているのか——これが驚くほど広範囲に及んでいます。
まず、浴室の壁や天井に貼られている表面フィルム。
このフィルム自体が塩化ビニルやポリエチレンといった樹脂でできていて、そのフィルムを壁に貼りつけるための接着剤に含まれる有機溶剤が、主にナフサ由来なのだそうです。
TOTOの人気商品である人工大理石の浴槽にも、耐久性や光沢を出すためのコーティング剤が使われていて、これもナフサから作られた有機溶剤が原料になっています。
さらに浴槽や壁パネル本体のABS樹脂やポリプロピレン、防水シート、配管部品に至るまで、多くがナフサを起点とする石油化学製品の連鎖のなかにあるわけです。
「ドミノ倒し」で製造ラインが止まる仕組み
つまり、ナフサが手に入らなくなると、接着剤が作れない、コーティングができない、パネル素材そのものも足りない——という「ドミノ倒し」が発生して、ユニットバスの製造ライン全体が止まってしまう構造になっているんです。
TOTOのユニットバスは、工場で壁・床・浴槽を一体化して組み上げる「プレハブ方式」で生産されています。
この方式は品質が均一で施工が早いというメリットがある一方、部材が1つでも欠けると製品として完成できないという弱点も抱えているのです。
自動車の組立ラインでネジが1本足りないと車が出荷できないのと、まさに同じ理屈と言えるでしょう。
接着剤やコーティング剤が入手できなければ、たとえ浴槽や壁の素材が倉庫に山積みになっていたとしても、製品として世に送り出すことはできません。
TOTOの発表内容と、その深刻さ
4月13日に出されたTOTOの正式通知では、システムバス・ユニットバス全シリーズ、そしてトイレユニット(便器と浴室が一体になったタイプ)の新規受注が即日停止されました。
ただし単体の衛生陶器、いわゆる普通のトイレ便器については対象外で、製造・受注は継続されています。
トイレは陶器が主体なので、樹脂への依存が低い分だけ影響を免れた格好でしょう。
TOTO広報のコメントがとても印象的でした。
「東日本大震災やコロナ禍、ウクライナ戦争のときも一定の混乱はありましたが、ここまで再開の見通しが立たない事態は直近では初めてです」
過去のどの危機よりも深刻だという認識を、メーカー自身が示しているのです。
影響の規模も軽く見ていられるものではありません。
2025年3月期の決算ベースで見ると、今回停止対象となった製品群の売上高は約1107億円。
TOTO全体の売上7245億円のうち約15%、国内事業に限れば4813億円の約23%を占める主力事業が、先の見えない停止状態に入ったことになります。
LIXILやパナソニック系にも波及
そして問題はTOTOだけでは済みませんでした。
競合のLIXILも「樹脂製品に影響が出る可能性がある」と認め、TOTO停止後にはLIXIL側にも注文が集中。
結果的に「納期未定」対応にシフトしたとの動きが報じられています。
パナソニック系も同様の対応を見せており、住宅設備業界全体が「作りたくても作れない」という異常事態に突入しているのが現状なのです。
正直、ここまで短期間で業界全体に広がるとは、多くの関係者も予想していなかったのではないでしょうか。
なぜホルムズ海峡封鎖が直撃するのか?
ここまで読んで「ナフサがお風呂に必要なのはわかった。でも中東の問題がなぜ日本にここまで影響するの?」と感じた方もいらっしゃると思います。
実はこの疑問こそが、日本のエネルギー構造が抱える最大の弱点を突いているのです。
少し数字を交えながら整理してみましょう。
中東依存度9割超という現実
日本の原油輸入に占める中東依存度は、約94〜95%に達しています。
これは過去最高水準で、内訳としてはUAEが約44%、サウジアラビアが約40%、クウェートが7%、カタールが4%といった構成です。
そしてこの中東からの原油のほとんどが通過するのが、ペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡。
世界全体の原油輸送の約20%がこの狭い水路を通っていることから、「世界の石油の首動脈」と呼ばれてきました。
その大動脈が封鎖されたのですから、日本が受けるダメージの大きさは推して知るべしという状況です。
「備蓄があるから大丈夫」とは言えない理由
ここで「原油は備蓄があるから大丈夫では?」と思われるかもしれません。
たしかに原油については国家備蓄と民間備蓄を合わせて約250日分が確保されています。
ところが、ナフサは原油と違って備蓄の層が薄く、しかも原油をそのまま使えるわけではなく精製工程を経なければ作れないため、備蓄原油があってもすぐにナフサへ変換できるわけではないのです。
たとえるなら、お米の備蓄はあっても精米所が動かなければ白米にはならない——そんなイメージに近い話でしょうか。
原料があることと、それが使える状態にあることは、まったくの別問題だということです。
ナフサの「実質8割」が中東に依存
ナフサに関して言えば、日本の消費量のうち約40%を中東からの直接輸入に頼っています。
加えて、国内で精製されている分の約40%もまた中東産原油から作られているのです。
合計すると、実質的に8割近くが中東の状況に左右されるという、なんとも脆弱な構造が浮かび上がってきます。
政府は「非中東ルートからの代替調達に最大限注力する」と発表していますが、4月時点では前年比2割増程度が限界との見方が出ており、5月以降も十分な量を確保できるかは不透明な状況です。
なぜこんなに中東頼みになってしまったのか
そもそも、なぜここまで中東依存が高まってしまったのかという経緯にも触れておきたいと思います。
実は1970年代のオイルショック以降、日本はエネルギー供給元の分散に取り組んできた歴史があります。
ところが2022年、ロシアのウクライナ侵攻を受けてロシア産原油の輸入を制限した結果、かえって中東への依存度が跳ね上がってしまったのです。
分散どころか一極集中が進んでしまったわけで、これはなんとも皮肉な結果と言わざるを得ません。
住宅設備だけの問題じゃない
そしてこの影響、TOTOやLIXILといった住宅設備メーカーだけにとどまる話ではないのです。
ナフサ不足はエチレンやプロピレンの減産を意味し、それは樹脂全般、溶剤全般の供給不足に直結します。
旭化成のようなキッチン・建材大手は、サランラップや断熱材、塗料への波及を懸念しているとの報道も出ていますし、防水シートや配管といった建設資材全体が同時に影響を受ける可能性が指摘されています。
石油化学工業協会が「供給の蛇口が閉まった状態」と危機感をあらわにしたのも、こうした広範囲な連鎖を見据えてのことなのでしょう。
たった一つの海峡が封鎖されただけで、お風呂から食品包装まで影響が及ぶ——この現実を目の当たりにすると、日本経済の「一本足打法」がいかに危ういものなのかを痛感させられます。
過去の供給不足と価格高騰のデータ
「で、結局今回のナフサ不足ってどれくらいヤバいの?」と気になりますよね。
それを判断するには、過去に起きた似たような事例と比べてみるのが一番わかりやすいかと思います。
住宅設備に影響を与えた「原料ショック」は、実はこれが初めてではありません。
そのたびに業界は混乱し、消費者も翻弄されてきた歴史があるのです。
1973年・1979年のオイルショック
最も古い比較対象は、やはり1973年と1979年のオイルショックでしょう。
1973年の第一次オイルショックでは、原油価格がわずか5ヶ月で4倍に跳ね上がりました。
1バレル3ドルから12ドルという急騰ぶり。
都市部では物価が50〜100%も上昇し、トイレットペーパーの買い占め騒動が社会現象にまでなったことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
1979年の第二次オイルショックでも原油が149%上昇し、プラスチック原料の価格は31%跳ね上がりました。
住宅設備の納期は数ヶ月単位で遅れ、建築費全体が5〜10%押し上げられたという記録が残っています。
2021年「ウッドショック」の衝撃
もっと記憶に新しいのが、2021年のいわゆる「ウッドショック」ではないでしょうか。
コロナ禍で世界的に木材需要が急増する一方で物流が停滞し、輸入木材の価格が3ヶ月で1.5倍になるという異常事態が起きました。
杉やヒノキの丸太価格は51%上昇し、製材価格に至っては72%もの値上がりを記録しています。
この影響で東京の建設資材物価指数は建築部門で平均37%の上昇を示し、木材や合板の納期は2〜3ヶ月も延長。
新築戸建ての販売は急減し、リフォーム現場では契約の見直しが相次ぎました。
住宅着工が3ヶ月から半年以上も遅れるケースが珍しくなかった当時のことを思い出すと、あの混乱がまた来るのかと、少し身構えてしまうのが正直なところです。
2020〜2022年の半導体不足
2020年から2022年にかけての半導体不足も、住宅業界に暗い影を落としました。
自動車や家電が注目を集めがちでしたが、実は給湯器やエアコン、住宅設備機器の納期も1〜2ヶ月、最長で半年まで延びていたのです。
TOTOやLIXILを含む水回り設備も間接的に影響を受け、住宅の引き渡しが遅れたことで不動産業界の資金繰りが悪化するという二次被害も発生していました。
「設備待ち」で工期が延びるのが当たり前になっていたあの時期は、建設現場にとってかなりの苦痛だったはずです。
今回の「ナフサ危機」はどのレベル?
では今回の「ナフサ危機」の数字はどうなのかというと、率直に言ってかなり不穏な兆候が出ています。
ナフサの国内価格は2025年後半から上昇基調にあり、国際価格は4月時点で前月比10%超もの急騰を見せている状況です。
アジア市場ではプラスチック価格が大幅に値上がりし、断熱材は20〜50%の値上げが予測されているほか、塗料では75%もの値上げに踏み切った事例がすでに出ているとの報道もあります。
過去の危機に共通するパターンがあって、それは「最初の数週間は在庫でしのぎ、やがて本格的な不足に陥り、価格転嫁と工期延長が一気に押し寄せる」という流れ。
TOTOが「受注済み案件の納品を優先し、新規は停止」としたのは、まさにこのパターンの初期段階と見ることができるのではないでしょうか。
住宅業界の試算では、ナフサ高騰によって建築コストが5〜10%上昇する可能性が指摘されています。
ウッドショックのときは新築マンション価格が27.8%も上昇した地域があったことを考えると、今回も相当な覚悟が必要になるかもしれません。
しかもウッドショックは「木材」という限定的な素材の問題だったのに対し、ナフサ不足は樹脂全般に波及するため、影響範囲がはるかに広いのが気がかりな点です。
住宅で使われるプラスチック素材は木材以上に多岐にわたっていますから、「ウッドショックを超える広範な影響が出るかもしれない」という業界関係者の声には、残念ながらリアリティがあると感じます。
私たちの生活への影響と対策まとめ
ここまで原因や過去の事例を見てきましたが、結局のところ「自分の暮らしにどう響くのか」が一番気になるところですよね。
結論から言うと、ユニットバスの停止はあくまで氷山の一角で、影響はもっと身近なところにまで広がる可能性を秘めています。
住宅関連——お風呂だけじゃない
ユニットバス以外にも、洗面台やキッチンの樹脂パーツ(カウンターや扉など)、断熱材、配管、塗料、防水シートなどが軒並みナフサ由来の素材に依存しています。
新築住宅を計画中の方にとっては、着工遅延やキャンセルリスクが現実的な問題として浮上してくることになるでしょう。
リフォームで浴室交換を予定していた方も、数ヶ月どころか「未定」という回答を覚悟しなければならない状況になってきました。
過去のウッドショック時には新築マンション価格が大幅に上昇した例もあるので、建築費全体が5%以上押し上げられる展開も十分にあり得る話なのです。
日常生活にも忍び寄る影響
そして「住宅の話でしょ、自分には関係ないかな」と思った方——ここからが本番かもしれません。
ペットボトル、食品トレー、レジ袋、弁当箱、ストロー。
こうした日用品のプラスチック製品は、すべてナフサを起点とする石油化学の産物です。
洗剤やシャンプーのボトル、紙おむつ、合成繊維の衣類、さらにはタイヤまで影響範囲に入ってきます。
すでに一部メーカーでは20〜30%の値上げを発表している事例もあり、スーパーやドラッグストアの棚に並ぶ商品の価格がじわじわ上がっていく展開は覚悟しておいたほうがいいかもしれません。
見落とされがちな医療分野
さらに見落とされがちなのが、医療分野への影響です。
手袋やガウン、注射器、カテーテル、透析チューブといった医療用プラスチック製品もナフサ由来であり、一部の医療機関では「ナフサ由来製品の不足が医療ケアに影響する懸念がある」との声が上がっているとのこと。
お風呂の話から始まったニュースが、最終的には命に関わる領域にまでつながっている——この連鎖の広がりには、正直かなり驚かされました。
今すぐできること——慌てず、でも早めに
では、こうした状況のなかで私たち一般消費者にできることは何があるのでしょう。
いくつか整理してみたいと思います。
まず、リフォームや新築を計画中の方は、とにかく早めに施工会社へ連絡を取ることが最優先です。
すでに受注済みの案件は優先的に対応されるとのことなので、「まだ正式に発注していないけど検討中」という段階であれば、一日でも早く動くことで在庫を確保できる余地が残っているかもしれません。
ウッドショックの際にも、早期に発注した人とそうでない人とでは納期に数ヶ月の差がついたという教訓があるのです。
また、TOTOやLIXIL以外のメーカー、あるいは海外製品、樹脂に依存しないタイプの浴室なども視野に入れておくと、選択肢がぐっと広がるかもしれません。
日用品の備え方——買い占めはNG
日用品については、今のうちから「量り売り」やリフィル(詰め替え)商品の利用を増やしておくと、プラスチック容器の価格上昇を受けにくくなります。
ドラッグストアではリフィル対応商品がどんどん増えてきていますから、普段の買い物のなかで少しずつシフトしていくのが無理のないやり方なのではないでしょうか。
ただし『買い占め』は逆効果です。
パニック的な消費行動がかえって品薄と価格高騰を加速させてしまうのは、コロナ禍のトイレットペーパー騒動で私たちが身をもって学んだ通り。
政府備蓄は一定量確保されているとのことなので、冷静にムダを減らしていく姿勢のほうが、結果的には得策と言えるでしょう。
情報収集のポイント
情報収集についても一言触れさせてください。
TOTOやLIXILの公式サイト、資源エネルギー庁の更新情報はこまめにチェックしておいて損はありません。
状況が日々変わっているいま、SNSの不確かな情報に振り回されるよりも、メーカーや行政の公式発表を基準にしたほうが、ずっと冷静な判断ができるはずです。
最後に——「知っている」と「知らない」の差
最後に、少しだけ長い目線でのお話をさせてください。
今回の一件は、日本経済がホルムズ海峡という「たった一本の水路」にどれだけ依存しているかを、私たちの生活レベルで突きつけた出来事でした。
お風呂が作れない、日用品が値上がりする、医療にも影響が及ぶ——遠い戦争の話だと思っていたことが、気づけば自分の家の中にまで入り込んできています。
この構造的な脆さは、一朝一夕で解決できる問題ではないのかもしれません。
けれど、少なくとも「知っている」ことと「知らない」ことの間には大きな差があるのだと思います。
再開の時期は国際情勢次第で、数週間で済むのか数ヶ月に及ぶのか、正直なところ誰にもわからない状況です。
だからこそ今できる備えを粛々と進めつつ、状況の推移を見守っていく——それが、いま私たちにできる最善の行動なのではないでしょうか。
この記事が、少しでもその判断材料になれば幸いです。
